若年認知症で裁判中断、万引きで起訴の61歳…大阪地裁堺支部

若年認知症で裁判中断、万引きで起訴の61歳…大阪地裁堺支部

 万引きで窃盗罪に問われた大阪府内の男性被告(61)が、大阪地裁堺支部の精神鑑定で若年性認知症と診断され、「裁判手続きが理解できず、訴訟に対応できない」として1年5か月間、公判が停止されていることがわかった。弁護人は裁判打ち切りを主張しているが、現行法では、精神状態を理由に裁判所が公訴を棄却できず、検察側が公訴を取り消すしかない。医学的知見の広がりで生じた新たな課題だけに、検察側も対応を慎重に検討している。

 弁護人の辻川圭乃(たまの)弁護士によると、被告は2007年4月14日、堺市内のスーパーでショルダーバッグ(1980円相当)を万引きした疑いで現行犯逮捕された。大阪地検堺支部が実施した簡易精神鑑定で「軽い認知症の症状はあるが、責任能力に問題はない」とされ、窃盗罪で起訴された。

 しかし、起訴後に辻川弁護士が接見した際、被告は万引きしたことを覚えておらず、現在を「昭和」と言ったり、辻川弁護士の名前もその場で忘れたりした。

 公判で被告側は事実関係を争わなかったが、「訴訟能力がなく、犯行当時も心神喪失状態だった」と無罪を主張し、精神鑑定が実施された。その結果、責任能力が完全に失われていたわけではないと指摘されたが、早発性アルツハイマー型認知症と診断され、訴訟能力について、「症状が急速に進行する恐れがあり、回復は困難。近い将来失われる」とされた。

 これを受け、地裁堺支部は07年11月、「(現在は)心神喪失状態で訴訟能力がない」と公判停止を決め、拘置もストップ。被告は府内の病院に入院した。

 その後、辻川弁護士は3か月ごとに状況を地裁堺支部に報告している。字を書けなくなるなど症状は悪化している、という。

 一方、検察側は「対応を検討中」としている。

想定外、司法配慮ほしい

 65歳未満で発症する認知症は若年性認知症と呼ばれる。10歳代で発症するケースもある。厚生労働省の推計では、発症者は全国で約3万7800人に上る。働き盛りで就労に困るだけでなく日常生活にも支障をきたす場合が多いが、近年になって問題視され始めたため、社会的な理解や支援体制づくりは遅れている。

 安冨潔・慶応義塾大法科大学院教授(刑事訴訟法)は、「医学の進歩で刑事訴訟法の立法当時に想定できなかったことが表面化している。起訴の判断には重みがあって検察が公訴を取り消すのは難しい。裁判所の判断で公訴棄却できるよう法改正するのも一つの考え方だ」と指摘する。

 精神科医で、NPO法人「若年認知症サポートセンター」(東京)理事長の宮永和夫医師によると、発症者が万引きなどの軽犯罪を起こすケースはほかにもある、という。宮永医師は「犯罪を行っても自覚がない場合がある。軽犯罪では被害弁償を優先させ、診察を勧める配慮が司法にもほしい」と話している。

(2009年4月8日 読売新聞)

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