[解説]うつ病の薬物治療 「何でも投薬」指針で見直し

[解説]うつ病の薬物治療 「何でも投薬」指針で見直し

 精神科診療所の7割が、わが国のうつ病治療が薬物治療に偏っていると考えていることが、読売新聞のアンケート調査で分かった。

 【要約】
・重要な手法だが、精神科診療所の7割が「偏重」認識
・製薬会社の働きかけで医師の抵抗感が減った
・英国では対話で治療する「認知行動療法」体制が確立

 国内のうつ病患者は、新しい抗うつ薬SSRIが発売された約10年前から急増し、100万人を超えた。

 SSRIは、従来の抗うつ薬より重い副作用が少ないとされ、一気に処方が増えた。「うつ病は心の風邪」という言葉も広がり、精神科を受診しやすくなったことも患者増の背景にある。

 抗うつ薬を適切に飲み、うつ病から解放された患者は多い。特に重症患者の場合、薬物治療は重要だ。

 その一方で、薬が安易に処方されているとの指摘もあがっている。

 読売新聞が、全国119の精神科診療所から回答を得た調査では、薬物偏重の傾向があると「強く思う」が19%、「ややそう思う」が54%に上った。

 抗うつ薬の処方は1種類が原則。しかし、複数の抗うつ薬や抗不安薬など10~20種類処方される患者も目立つ。調査では、過半数の患者に複数の抗うつ薬を処方する医師が14%いた。

 東京都内の精神科医は「製薬会社のうつ病キャンペーンで、医師も患者も薬への抵抗感が減った。軽いうつや、自然回復するうつにも抗うつ薬が処方されるようになった」と話す。

 全国自死遺族連絡会の田中幸子さん(61)は、自殺者の遺族から様々な電話相談を受ける。うつ病の娘を10日前に自殺で亡くした母親は「眠れないので精神科を受診したら、今度は私が抗うつ薬をもらった。飲んでいいのか」と心配した。

 家族を失い、一時的に落ち込むことが病気なのか。長男を自殺で亡くした経験がある田中さんは、「今のうつ状態は立ち直るために必要。悲しみ、泣いていいんです」と助言した。

 抗うつ薬の効果を調べる試験では、有効成分を含まない偽薬との比較が行われる。軽症から中等症の患者では、抗うつ薬と偽薬は効果にあまり差がなく、偽薬で改善する人も多い。

 こうした薬物偏重を改めるため、国は4月から、マイナス思考に陥りがちな患者の考え方を、対話を通して修正する「認知行動療法」を、健康保険で受けられるようにした。

 だが、医師が30分以上行うという条件付きのため、実施可能な施設は少ない。今回の調査では、診療所の医師1人が1日に診る患者は平均44人。これでは1人の診療に十分な時間はかけられない。医師の多くが、認知行動療法の専門知識や技術を持っていないのも問題だ。

 慶応大保健管理センターの大野裕教授は「精神科医がすべてを抱え込む現状を改め、認知行動療法は技術を習得した心理士に任せるなど、チーム医療を早急に実現するべきだ」と訴える。

 英国では10年ほど前から、多額の国費を投じて、認知行動療法の治療者を1万人養成する計画を進めるなど、精神医療改革を続けてきた。精神疾患を、がん、循環器疾患と並ぶ重大疾患に位置づけているのだ。

 その結果、うつ病患者が認知行動療法を受けやすい体制ができ、医師も診療に余裕を持てるなど、医療の質が向上。自殺率が10年間で約15%減少した。

 国内でも新たな動きが始まっている。千葉大は先月から、医師、心理士ら医療従事者を対象とした認知行動療法の養成講座を開始。大野教授らは医師を対象に、認知行動療法の様子を録音、第三者が評価する仕組み作りを急いでいる。

 国は、英国の取り組みを参考にして、うつ病対策に本腰を入れてほしい。関連学会も、うつ病の治療指針作りを急ぎ、原因や症状の軽重を問わずに投薬する現状を早急に改めるべきだ。(医療情報部・佐藤光展)

読売新聞

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