【一人じゃながんすべ・中】心も治療 社会復帰へ

【一人じゃながんすべ・中】心も治療 社会復帰へ

 盛岡市の岩手医大の高度救命救急センターには、年間に自殺未遂者が約250人運ばれてくる。「再び自殺に向かわせない」と、精神科医やソーシャルワーカーが連携し、精神的、社会的な支援を続けている。

 「何か困ったことがあったの」。センターに勤務する精神科医の三條克巳医師は薬を大量に飲んで自殺を図った患者に尋ねた。口調は穏やかだが、自殺の話題は避けない。単刀直入に患者の心に迫る。治療の初期段階で「誠実で温かな対応を受けた」と感じてもらえばと思う。その後の治療の成否を左右するのは、人のぬくもりだと考える。

 センターには2人の精神科医が所属し、24時間態勢で患者に対応する。自殺未遂をした人は、体だけでなく、精神的にも「重傷」を負っている。精神科医が常駐すれば、体と心の傷を同時並行で治療を進められるため、2002年から取り組みが続けられている。

 ただ、自殺未遂者は社会的な「治療」も求められるケースも多い。多重債務や家庭問題、生活苦など、患者が抱える生活上の問題が絡み合っているからだ。三條医師は「医療的な治療だけでは限界もある」と話す。

 こうした社会的な問題の解決を支援するのが、8人のソーシャルワーカーらが集まる同病院の医療相談室だ。

 普段は病院内で、外来や入院患者らの相談を受けているが、救急の精神科医から要請があれば、治療現場に駆けつける。医師に助言するだけでなく、直接患者自身に語りかけることもある。「大丈夫です。しっかりと相談に乗りますよ」。

 問題を1人で抱え込み、視野が狭まって自殺を図った患者に解決の糸口を示す。ソーシャルワーカーの存在が、混乱した患者の心を落ち着かせる働きもあるという。センターに勤務する精神科医の工藤薫医師も「頼もしい存在」と信頼を寄せる。

 治療に当たった精神科医と患者の情報を交換し、例えば、多重債務問題であれば弁護士につなぎ、生活が困窮していれば生活保護の申請を手伝う。解決に近づくと、少しずつ患者や家族の表情も明るくなる。「死ななくて良かった」。そう感謝の言葉を述べ、社会復帰する患者もいる。

 救急治療から、自殺の引き金となった問題の解決、そして患者が社会生活と復帰するまで、支援は続く。

 ただ、三條医師や工藤医師、そしてソーシャルワーカーの青木慎也さんは、「患者が戻る地域での支援も重要」と強調する。患者が、再び孤立すれば、再発の恐れが強まる。また、自殺未遂をしなければ救いのない社会であってはならないという思いもある。自殺と向き合う医師やソーシャルワーカーだからこそ、自殺のない社会を切望している。
(2011年1月29日 読売新聞)

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